回顧

過去は過去であると捨て去れる人間でないと、(年齢を重ねていくのは)難しい

4年前、とあるロックバンドにまつわる過去の話を書いた。

30代の声を聞き、感受性が失われていく危機感を募らせながら、廃れたmixiでカラオケオフを開催し、昔の感覚と気力を取り戻した。そこで終わっていた。

実際あれから、たまにカラオケオフを開催しようとするも、大した人数は集まらなかった。別のバンドで開催したり、時代に合わせてツイッターに舞台を移したりもしたが、需要はなかった。かつての仲間は、年齢のせいか、家族ができたせいか、人にもよるが距離を置かれるようになった。自分も、集まりも、既に終わったものだった。賞味期限が切れていたのである。

時代も変化し、当時の00年代後半から10年代前半のように、リア充と非リア充がコラボすることもなく、貪欲に趣味の仲間を求める機運は薄れ、チャットアプリの中の内向きなコミュニケーションが求められるようになった。自分は飢餓感を覚え、方向感の定まらない、迷走する数年間を過ごすことになる。

30歳未経験で飛び込んだ仕事に慣れてきてからは、仕事の面での1次的な目標が達成されたので、次は娯楽の方向へと向けたい気持ちが高まった。しかし、カラオケだけでなく、旅行や風景、自然散策、美術館・博物館など、趣味の仲間を作りたいと思いつつも、結局かつてのカラオケオフのように、成功することはなかった。むしろ、その成功体験が、「どうしてうまくいかないんだ」と自分を苦しめることになった。年齢のせいもあった。20代後半では許されていたキャラクターも、30代では通用しなかった。人間的な魅力のなさに、悩むこととなる。これは仕事の方でも同じだった。クライアントから信頼を勝ち取ることはあっても、人間として魅力を感じてもらえたことはなかった。

どうして昔のようにうまくいかないんだ。どうして彼らは、素っ気なくなったんだ。「あの頃は、仕事の面でどうにか現状を打破しようと苦しんでいたが、娯楽の面では恵まれていたのだな」と、昔を懐かしむことが多くなってしまっていた。

祖父母3人が、半年ほどの間に次々と他界したことも重なり、感傷的になることも増えていた。はるか昔、自ら別れを申し出た交際相手について、とにかく我慢をかさねて、結婚までこぎつけて、式に招待すればよかったなどとも思った。

仕事の目標も、長時間労働の傾向が強まっていき、明確に目指すものが失われていた。無気力と焦燥、他人と比べることも多くなり、迷走を極める。孤独なアラサーから、孤独なアラフォーへ。自分はこういう人間だ、と主張することができない状態が続いた。20代の頃とは明らかに違った。違うことを受け入れていなかった。 

20191月、何となく出し続けていた、元職場の同僚への年賀状が、返ってこなかった。ああ、そうだよな。人間関係には、賞味期限がある。それは当たり前のことなのだ。ようやく、強く意識した。賞味期限があるからこそ、大事にしなくちゃいけないのだ。そして、大事にした人間関係も、ごく一部を除いて、いつか終わりを迎えるのだ。積り積もった心の曇りが、やっと晴れてきたのだった。

過去は過去なのだ。昔と環境が違うのは当たり前だ。ここ数年間、自分は過去を生きていた。かつての自分と違うこと、思い描いていた未来と違うこと、それらに囚われていた。

今年、5年間働いた職場に見切りをつけ、同じ分野ではあるが新しいスタートを切った。2019年後半の3か月間は忙しくもあったが、これまでの職業人生の中で、一番充実しているのではないかと思えるほどだった。こういう仕事がやりたかったんだよな・・と思えるものであるし、次のステップを考えられる内容だからだ。

さらに、かつてカラオケオフで知り合った中で、今も関係が残っている貴重な友人の会社から、個人で仕事を請け負うことにもなった。土日も仕事のようなものだ。でも充実している。

20代の頃は、本気に近い冗談で「ニートになりたい」と言っていた。そのころからは、全く考えられない状態になっている。でも、これが今の自分なのだ。過去は過去であり、今の自分には何も影響を与えていない。過去に親しかった友人でも、それはその時の話であって、今に影響するわけではない。その時に楽しかったのは紛れもない事実であり、そしてどこかで賞味期限を迎えるのもまた事実なのだ。

30代前半は、20代後半の高揚感を捨て去れていなかったのだろうと思う。アラフォーに差し掛かって、ようやく過去は過去であると意識することができた。同時に、過去を捨て去れない恐ろしさを知った。40代、50代、60代になっても、過去を生きている人がいる。苦しいのではないのだろうか。生きにくいのではないだろうか。

過去は過去であると捨て去れる人間でないと、(年齢を重ねるのは)難しい。このフレーズの元ネタが出たのは20年前。過ぎ去りし日を憂うことに、何の意味もない。

20191231日)※アイキャッチ画像:2019年6月のレイキャビク市街

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