誰もが知っているグルメ漫画といっても過言ではない「美味しんぼ」
色々あって連載終了となったものの、いまだ多くの人の記憶に残る漫画といえますよね。
ビッグコミックスピリッツという青年誌で連載されていたということもあって、基本的には大人向けの漫画のはずなんですけど、自分はどちらかというと「子供の頃から高校生くらいまでに見ていた漫画」というイメージです。結構こういう人は多いんじゃないですかね。ちなみに私は1983年生まれです。ブログタイトルからもある程度想像つくかとは思いますが。
同年代の友人・知人からも、幼少期から少年期にかけて読んでいたという話をよく聞きます。
連載終了が2014年ですから、まあ忙しい社会人となってからは、マンガ自体あまり読まなくなったから子供時代の記憶が強い、ということもあるかと思います。
とはいえ、本来大人向けのマンガであるはずの美味しんぼが、なぜ一部の子どもの心を掴んだのか。アニメ化もされましたし、親が読んでいたからという方が大半と思いますが、改めて考察してみます。ブックオフで投げ売りされていた文庫版美味しんぼを10冊くらい買って、再読したうえで書きますよ。ま、単純に好きなので。思想的な部分は相容れませんが!(ここはちゃんと主張しておく)
子どもにとってわかりやすいものとは
美味しんぼが面白いのって、やっぱり初期~中期(山岡が結婚するあたりまで)だと思うんですよ。少なくとも子どもの頃はそう思ってました。で、初期の美味しんぼって、非常にわかりやすい勧善懲悪型の物語なんだなと感じました。善は山岡さんとその周囲、もしくは伝統を守る小規模な業者です。そして、悪は海原雄山か著名な食通、大量生産を行う大企業や食に真摯に向き合っていない(あくまで山岡目線ですが)飲食店や料理人となります。わかりやすい対立構造をつくり、ただのサラリーマンである山岡さんが(実際は著名人のご子息なのだが)絶対権力に一矢を報いる、もしくはゲストキャラに本質的なものを気付かせる、という痛快物語を生み出しているのです。
子どもにとって、善と悪がハッキリしていて、善が悪に立ち向かうという勧善懲悪型の物語がわかりやすいのだと思います。大人であっても、「強者に立ち向かう」という物語は非常にわかりやすいですから、初期に見られた海原雄山の傍若無人な振る舞いも、読者の頭にわかりやすい悪役としてインプットし、対決していくという構図をつくるためなんじゃないかと思います。だからこそ、少年少女が「つまらない」と投げ出さずに、読み続けることが出来たのではないかと思います。細部まで理解できなくても、なんとくなく最後に山岡さんがビシッと決めて、一件落着となります。たまに海原雄山にやり込められたりもしますが、それもやはり「わかりやすい」対決の結果ですから、小学生でも見続けることが出来たのかもしれません。
環境問題や捕鯨など感情的に訴えることができるテーマもある
この対立構造の中には、「環境問題に立ち向かう」というものもあります。環境問題というのは、実際は簡単に論じることのできないテーマですが、中学生くらいから身近に考えられる社会問題として教科書や学習教材などで取り上げられるテーマではないでしょうか。美しい景観が崩れるというのは、理屈だけでなく感情的にも訴えることのできるテーマです。美味しんぼでは、ざっと思いつく限りでも、長良川河口堰や石垣島の空港建設、有明海の干拓事業などが取り上げられています。ちなみに、これらのエピソードは今回ブックオフで購入したものには収録されていません。資料無しで思い出せるっていうのもすごいなと。それだけ、記憶に残りやすいということです。もちろん、「いい大人」になってから再読した場合、子供の頃の感想とは当然違ったものになるでしょう。
捕鯨の問題なんかもまたわかりやすく、「鯨は人間の次に頭のいい動物です」という発言を環境保護団体の青年にさせ、矛盾点をついていくという展開。対立構造をわかりやすく作るためなのでしょう。実際は、そのような感情論とは別に種の保存などの問題があるのだとは思いますが、読者に強烈なインパクトを与えるには有効ですよね。
雄山が「いい人」になっていくにつれ、つまらないと感じるように
そういえば中期以降、海原雄山から傍若無人さが消え、「人格者」として描かれるようになっていってから、少年時代の私はつまらなくなったと感じていました。それはやはり、「わかりやすい対立構造」の一つが消えたからですよね。権力に立ち向かう痛快物語ではなくなってきた。それが子供心にはつまらなく感じたのでしょう。
今改めて読んでみると、雄山がキャラ変したことは間違いないのでそこの違和感はあるものの、初登場時27歳であった山岡さんが、徐々に父親への心情を変化させていくという展開について、一つのストーリーとして理解ができます。突っ込みどころは結構ありますけれども。ただ、少年期にそこらへんまで読み取るのは難しいでしょうね。
というわけで、初期の美味しんぼは勧善懲悪型の「子どもでも」わかりやすいストーリーだったというお話でした。
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